作家の窓


2020/03/29
TSUWARI



・・・狭い部屋を一日かけて大掃除をする。
けっして!目の前の台本から逃げているワケではない。
台本を書く前の絶対的に必要な、【しきたり】なのだ。
ピカピカに掃除を終え、さて、買いだめた本でも読むかナ。
『台本書けよ~!』という声がどこからか聞こえてくるが、
手前には印刷された本の活字を読まないと、一文字もかけないという習性があるのだ。
誓って言う!「書く」ということから逃げているワケじゃない。コレは、手前だけの事じゃないからねッ。
色んな作家の「あとがき」にもよく書かれている真実だ。
頭の中にあるものを「文字」というカタチあるモノにするために、一時期「活字中毒」になる。
意味のない雑誌広告の隅々まで読む(見る)。
そして、たくさん眠る。こんこんと眠り続ける。
妊娠の初期症状と一緒だ。(新たな作品の身籠り。)
そんな時期を過ぎると次なる症状が出てくる。
――― ヒトは、一日に6万個の「思考」をしているという。
この時期は、その「思考」の約80%を使って、なにをしていても『作品』の事ばかりを考えているといっても良いくらい考え続けている。
「思考」がオーバーヒート状態になると、ヒトは、おかしくなちゃうらしい。(事実、そんな作家の話は過去にも現代にもいっぱい聞くでしょ?)
そのためにヒトに与えられた薬が「忘却」なのだそうだ。
だから、だから、だから手前は常備してある大量の氷をグラスに入れて酒を注ぐ。 呑みたくないのだ!ムリに呑むのだ!「忘却」のために!!
ムリに、ムリにね。
ところが、酒を呑んだからといって、「思考」は止まらない。 これから書く作品と関係のないコト・・・おもにエッチなこと。
その話しはヤメテおくが、そんな、どうでもいい「思考」はむしろ「覚醒」へと繋がる。
とにかく思いついたモノをなんでも大量のメモに書き、壁に貼り付ける。
そして、芝居のネタのメモは日々増えてゆく。
中には、当然、翌日読んでも何を書いているのかよくわからないモノもあるのだが・・・。
そして酔いが回った後、誰もいないのに、誰かと話し続けている(時にはケンカしている)自分にフト気付く。
・・・アレ?今、誰と話してた?(ま。泥酔です、か?)
布団に横たわり寝ていても突然起き上がり、何かしゃべっていたりする自分に気付く。
・・・アレ?今、ここにアイツいたよね?
当然の様に、翌朝は最悪な気分で目が醒める。
二日酔いではない。
ワケのわからない怒りやネガティブな感情でいっぱいになり、最悪のドロドロ気分になるのだ。
―――これを手前は、【悪阻(つわり)】と呼ぶ。
吐き気、不快感、嘔吐、食欲不振、クチの渇き、倦怠感、胃痛、勃起、エトセトラエトセトラ・・・。
新たな子供(作品)を産み出すためのツライ日々がつづく・・・
母体の免疫能力を低くして、子供(作品)に栄養を与えるのだ。
コレもまた恒例だ。
いま、コロナなる新参者が訪ねて来たら、コロなっとヤラれちゃうコロね。
安産などした事がない。
そして手前は、原稿用紙に鉛筆を落とす前に、おもむろに古いカレンダーの裏側に「構成」を書き始める。
この「カレンダー裏書き」が終わると、いよいよ「安定期」を迎える事が出来る。
それまでは、この【悪阻(つわり)】と向き合っていくのだ。
・・・つづく

![]() |
![]() |
![]() |